小説家・加藤シゲアキ

 とあるSNSで小説「ピンクとグレー」に関する熱心な紹介文に出会い、ちょうど新作Burn.も発売するところだったので3作を一気に読んだ。著者の加藤シゲアキ氏本人について詳しくはなく、あらすじもほとんど知らない状態で読んだので作品をありのまま楽しむことができたと思う。

ジャニーズアイドルが書いた本だから出回っているという部分もあるだろうけど、それだけで片付けるのは勿無い完成度。かといって完全にアイドルと切り離して読むこともできない。すこし距離を置いて、アイドルの書いた芸能界の物語として楽しむこともできる。ファンはもちろん、そうでない人にも読んでもらいたい。

できるだけ事前知識なしで3作とも読んでもらいたいのでネタバレは別記事に。他人の感想は読んでないから自分で感じたことだけをそのまま書いてます。

 

ピンクとグレー

 ステージという世界の魔法、幻想に魅入られた幼なじみの2人の青年の愛と孤独を鮮やかに描いた、切ない青春小説。 - 「Book」データベース2人の青年“ごっち”と“りばちゃん”による、君と僕の世界。愛とか恋とかの類はあくまでも添え物。みんな自分のために、自分なりの表現や生き方を探っていく。
ピンクとグレー (角川文庫)

ピンクとグレー (角川文庫)

 

最初はごっちとりばちゃんの青春が眩しくて、ドキドキしながら読み進めていた。後半に差し掛かってからは一瞬も文章から目が話せなくなって一気に読み切った。それくらいぐいぐい引き込まれる熱量がある。

文庫本版あとがきを読み、気づけば涙が溢れていた。作家・加藤シゲアキの、ある種のカタルシスみたいなものに泣いたのかもしれない。読み終えて、どのように受け止めたらいいのか戸惑った。

16歳でジャニーズのアイドルグループとしてデビューした加藤氏が作中のような生活を送ったのかはわからない。他のメンバーよりも仕事量が少なかったのかもしれないけれど、普通に大学生をやってきたつもりの私でもこれほどリアルな大学生は描けないと思った。巻末インタビューで語っているとおり、ひたすら「リアリティ」を追求した小説だと感じた。もちろん後半の部分は完全にフィクションだけど(そうあってほしい)。

とにかく衝撃的で読み応えがあった。おすすめです。 *1

 

閃光スクランブル

夜7時、渋谷スクランブル交差点。女性アイドルとパパラッチ――心に傷を負った者同士が、本当の居場所を求め踏み出す一歩から始まる愛と再生の物語。 -  内容紹介文

閃光スクランブル

閃光スクランブル

 

こちらは「恋とか愛とかの類」が中心の物語。本筋に絡んでくる登場人物も多く、人間関係がごっちゃごちゃ。自分の立場に縛られず本能のまま恋愛する人たちだけがいる。作品全体を通して、ピンクとグレーとは対照的な描写がちりばめられてた。

物語はちょっぴり意味深でダークな雰囲気から始まって、伏線が揃ったところから一気に回収して最後にヒャッハー!ってなる感じ。印象としては、成田良悟っぽさがあった(たぶんもっと似たスタイルの作家さんはいる)。混沌とした世界なんだけど、登場人物たちの過去や社会問題への重さをあまり残さない。

ピンクとグレーでは舞台に立つために登場人物たちは自分を作り上げていったけど、閃光スクランブルではありのままの姿でいられる場所を求めて、自分たちの舞台を壊していく。前作の息苦しさとはうってかわって爽快感がある。

話の持っていき方がすこし強引に感じる部分もあったけど、読んでいて楽しくなる作品。読み終わった直後に、もう一度読み返したくなった。

 

 Burn. -バーン-

 家族と愛を問う、感動物語! - 内容紹介文

Burn.‐バーン‐ (単行本)

Burn.‐バーン‐ (単行本)

 

この最新作は子役出身の舞台演出家・レイジの話。子役として活躍していた20年前の話と、結婚済みで妻の出産を控えた30歳の話の2つが交互に語られてゆく。

正直なところ、この作品は読んで消化が難しかった。テーマとしては「家族」らしいけど、家族の話としてはあまり印象に残らない。多義的な「家族」ならもうすこし解釈の余地があるかもしれないけど、汲み取れなかった。

NEWS加藤シゲアキ 長編第3作発表「人はいつだってリスタートできる そう信じたいんです」 | ダ・ヴィンチニュース ※多少ネタバレあり

このインタビューを読んでやっと物語の意図がすこしわかった。子供らしさのないレイジが、子供を取り戻すことで父親になる話。言われてみれば、という感じもする。けどそれ以外にも印象的な話が盛りこんであるから、どちらに軸を置いたらいいのかわからなかった。

「2作で獲得したテクニックをいいところどりしたうえで、今まで書いたことのないものを書きたかった」とのことだけど、インパクトという点では欠けてしまっている。とはいえインパクトや勢いだけが小説の醍醐味でもないから、じっくり読ませる小説も今後は期待したい。

 

まとめ

この3作で渋谷を舞台とした「渋谷サーガ」シリーズとしては一旦終了らしい。3作とも同じ街を舞台としながら全く方向性が違っていて、読み応えがあった。

前2作の特徴として様々な音楽や映画が出てくるところがあるのだけど、Burn.ではその傾向が薄くなっていたから今後もその作風で続けるのかは不明。知らない音楽/映画/本の話が多くでてきて全てはカバーできなかったけど、ひとつひとつ意味がありそうなのでそれを含め理解すると小説の世界観の深みが増しそう。

既刊においては全て芸能の話が出てきて、それが魅力のひとつでもあるけど、そればかりでは小説家として続けるのは難しそう。とはいえキャラクターのしっかりした登場人物や映画のようなリアリティ*2のある描写は魅力的なので、今後どんなテーマに挑んでいくのか加藤シゲアキ氏の小説家としての本領が楽しみだ。

*1:文庫本出版にあたって書きなおされ、単行本版より読みやすくなってるそう

*2:映画のような描写が小説として良いのかはまだ考えきれてない